「何見てんのさ」
いや別になんでもねぇさ、はる姐さんが来てからずいぶん経ったななんてね。
あれから八年だぜ。月日ってぇのは助兵衛なもので、たつのが早いってな。はは。
「用もないのにじっと見てるんじゃないんだよ、この唐変木っ」
この家へ越してきて間もない頃に、友人のみっちゃんが猫を確保したんだが里親を探しているなんてね。ま、ちょいと会って見ようじゃねぇかなんてぇことでもって来たのがきょとんとしたどんぐり眼の三毛猫。女房と相談するも何もあたしはすっかり家族の一員になってもらうつもりで女房の顔を見たら、女房は上気した顔で同じことを思っているなと。名前をどうしますか?なんて女房が言うから、女房の名前が「亜紀(あき)」だから「はる」でいいんじゃねぇかって。気が小さくって甘えっ子で、いつもあたしたち夫婦どちらかに寄り添って離れようとしない。ちょび太が来るまではね。あれから八年、ちょいと時間を重ねては来たもののなんだか妙に色気のあるきれいな猫になっちまったなって。ま、できるだけ長生きをしてもらって、これからもよろしくな。さて、待ち人来ずだな。出掛けるとするか。
(ああ、かわいいなぁ)